『プラスチック』は、目にしない日がないほど私達の生活の中に根付いています。
そのプラスチックについてきちんと理解するためには、実は高校化学で習う高分子化合物の知識が必要となります。
小学生や中学生にとっては、まだちょっと難しい内容ですよね。
そこで、小学生や中学生の子供にもわかりやすく『プラスチック』について解説していきます。
実は自宅のキッチンでも、牛乳を使って『カゼインプラスチック』というプラスチックを作ることができます。
この記事では、かがくをもっと身近に感じることを目標に、『カゼインプラスチック』ができる原理を簡単に説明しながら、実際に牛乳からプラスチックを作る実験の様子や結果などについてまとめています。
比較実験やプラスチックについて調べてみることで、自由研究にも挑戦してみてください!
プラスチックとは何だろう?
物質は分子というものからできています。
分子の構造は、分子の種類によって異なります。
では、プラスチックの分子はどうなっているのでしょうか。
実はプラスチックの種類によって、基本となる分子は違うのです。
でも、それぞれのプラスチックには必ず基本となる分子があり、その基本となる分子1つをモノマーと呼びます。
モノマーをたくさんくっつけてポリマーにしたものを、『プラスチック』と呼びます。
モノ ⇒ 1つ
ポリ ⇒ たくさん
というイメージを持っておきましょう!
では、一体モノマーをどのようにくっつけてポリマーにするのでしょうか?
むずかしい言葉で『重合』という反応によって、たくさんくっついていきます。
重合にはいくつも種類がありますが、身近なプラスチックの生成に関わっている『付加重合』と『縮合重合』というものを簡単にご紹介します。
付加重合(ふかじゅうごう)について
付加反応という言葉の説明からしましょう。
付加反応をコトバンクで調べると、次のような記載があります。
広い意味では、二つの分子が直接結合して新しい一つの分子を生成する反応をいう。反応する二つの分子は異なる種類の分子であることが多いが、同じ種類の場合もある。
引用:コトバンク
モノマーが付加反応を何度も繰り返しながら結びつくことを付加重合といいます。
ちょっとむずかしいので、ポリエチレンというプラスチックを例にイメージを図に描いてみます。
(ポリエチレンはラップなどにも使われていますので、家の中を探してみてくださいね。)
二重結合は、両手であく手しているイメージと考えてみてください。
このように、付加重合は二重結合や三重結合を持つモノマーが結合をくり返しているのです。
付加重合によってつくられるプラスチックでよく耳にするものと言えば、
ポリスチレン・ポリ塩化ビニル・ポリプロピレンなどがありますよ!
家にあるプラスチックの材質を調べてみましょう。
縮合重合(しゅくごうじゅうごう)について
分子のくわしい説明は少しむずかしい話になってしまいますので、大まかに次のようなイメージを持ってみてください。
分子は、大きな玉や小さな玉がくしでつながっている(手をつないでいる)とイメージする。
今、モノマーAとモノマーBの2つの分子について考えてみましょう。
(※AとBは同じ分子の場合もあれば、異なる分子の場合もあります。)
大きな玉同士をつなぎたいけれども、はしっこの小さな玉がじゃまをしているイメージです。
ここに熱などを加えて反応を起こすことで、モノマーAとモノマーBの小さな玉同士がくっついて、水などの簡単な分子になってぬけ出していくのです。
このように、水などの分子が抜け出して大きな玉同士がつながることを縮合といい、
この縮合を何度もくり返して結びつく重合のことを縮合重合といいます。
縮合重合によってつくられるプラスチックでよく耳にするものと言えば、
ナイロンやポリエステルなどがありますよ。
ポリエステルの一種であるPETも縮合重合によって作られたプラスチックです。
水が抜け出して結合しているということは、原理上は水を加えれば元に戻ると考えられますよね。
実際は複雑な化学反応などを経て元に戻るものが多いのですが、「元の状態に戻すことができる(解重合)」というのが、縮合重合によって作られたプラスチックの特徴です。
だから、リサイクルもしやすいということになります。
牛乳から作る『カゼインプラスチック』とは?
牛乳の約80%は、『カゼイン』というたんぱく質でできています。
(※カゼインは、細かく分けるといくつかの種類に分かれますが、この記事ではカゼインとして1つの物質と考えます。)
カゼインは、マイナスの電荷を帯びているため、カゼイン同士が反発しあって脂肪などと一緒に液体中に浮かんでいます。
牛乳が白く見える理由はこれらの浮遊物質に光が当たり色々な方向に反射するからなんですよ。
ここにお酢などの酸を加えるとH+というプラスの電荷が加わり、カゼインのマイナスがうばわれてしまいます。すると、カゼインは電荷を帯びていないため反発しなくなり、集まって沈殿するのです。
この沈殿したカゼインをこしとり、脱水、圧縮、加熱による乾燥をくり返すことで、縮合重合がおこり『カゼインプラスチック』になります。
おいしいにおいはするし、失敗したものは食べられるし、プラスチックとは思えない・・・。
けれども、かがくの目線で見るとこれも立派なプラスチックだなんて不思議ですね。
そして、カゼインプラスチックは生分解性プラスチックです。
生分解性プラスチックとは、自然界で完全に分解されるプラスチックのことです。
(※天然由来のプラスチックもあれば、石油由来のプラスチックもあります。)
『カゼインプラスチック』を土に埋めて分解されるか実験してみると、自由研究にもなると思います。
興味のある方は、是非、生分解性プラスチックについても調べてみてくださいね!
作り方~子供と『カゼインプラスチック』を作ろう!
『カゼインプラスチック』の作り方と、作る際の注意点を説明します。
材料・準備するもの
◆材料
- 牛乳(今回は成分無調整の牛乳を200ml使用)
※豆乳でも作ることが可能
- お酢などの酸
※レモン汁などでも作ることが可能
- 食紅
※着色したい場合のみ
◆準備するもの
- 鍋
※牛乳を温めるために使用
- スプーン
※お酢を一滴ずつたらすために使用
- ザル
※カゼインをこす時に使用
- クッキングペーパー(フェルトタイプ)やガーゼなど
※カゼインをこす時に使用
- クッキングシート
※電子レンジ加熱用
- おはし
※かきまぜ用
- 軍手
※やけど防止用
- 電子レンジ
※加熱用
※トースターだと表面だけ焦げて中が乾燥しにくいので電子レンジの方がよい
- 単純な形のクッキー型
※無くても作れるが、あると成形しやすい
手順
1.カゼインの分離
牛乳からカゼインを取り出します。
方法はとても簡単です!
カッテージチーズをご存じですか?
まさにカッテージチーズの作り方と同じなのです。
①牛乳を鍋で温める
沸騰したら弱火にしてください。
着色したい方は、このタイミングで食紅を入れましょう。
②お酢を加える
温めた牛乳にスプーンなどで一滴ずつお酢を入れていきましょう。おはしなどでかき混ぜながら少しずつ入れてください。
ある程度お酢を入れるとだんだん固形物が現れます。固形物と液体が完全に分離すると液体が透明になってきます。こうなったら火を止めましょう。
③ざるとクッキングペーパーでこす
ざるの上にクッキングペーパー(フェルト状のもの)などをしいて、鍋の中のものを全てこしてください。
④余分なものを洗い流す
油分など余計なものを洗うために、クッキングペーパーの端をねじって中身が出ないように注意しながら水で洗ってください。ある程度排水がきれいになってきたら、水気をしぼりましょう。
2.カゼインの成形&圧縮
クッキングペーパーを数回変えながら、水気をとっておきましょう。
水気が多すぎると加熱が難しく、少なすぎるとパサついて成形しづらくなります。
手で丸めてみてギリギリ形が保てるくらいの水気がよいと思います。
私の一番お薦めの成形方法はクッキー型を使う方法です。
均一に圧縮するためには、できるだけ単純な形がよいと思います。
1cm弱の厚みに圧縮してつぶしたカゼインを型で抜いた後、指でしっかり圧縮してください。隅の方までしっかり圧縮するときれいにできますよ。
最後にゆっくり型から外しましょう。
指で成形することもできます。
今回は指先でしっかり圧縮しながら勾玉も作ってみました。
穴を開ける場合には、形が崩れやすいので注意しましょう。
私は、水で濡らした竹串で少しずつ穴を開けました。
子供はなぜか「かば」を作りたいと言ったので、バターナイフも使って粘土工作のように作ってみました。
3.カゼインの加熱 ~いよいよプラスチックへ
クッキングシートの上に2で成形したカゼインを乗せて加熱しますが、成形してすぐの水分の多い状態だと電子レンジ内で破裂しやすいです。
そこで私は300W2~5秒からスタートして何度か繰り返した後に、様子を見ながら500W5秒、10秒、20秒という具合で時間を増やしていきました。
500W以上でしか加熱できない方は、成形したカゼインをラップせずに冷蔵庫で1日くらいおくと乾燥してきますので、予めある程度乾燥させてから加熱してみてください。
加熱の際は、最初は数秒ずつからゆっくり加熱した方が安心だと思います。
クッキングシートが水分で湿ってくるので、途中で少しずつ場所を移動したり固さを確かめたりしました。(熱いのでできれば軍手などをはめて火傷に注意しながら行ってください。)
ある程度水分が抜けてくると、多少破裂音がしても分解まではしませんでした。下図の白っぽく変色した部分や焦げがついた部分は既に固くなっている部分です。
出力と時間を調整しながら、全てが固くなるまで気長に加熱をくり返します。
完成品はこちら。
おまけ)~子供と工作!
息子は、大きく口を開けた「かば」をどうしても作りたいとのことで、熱心に工作していました。息子曰く「かば」は強く、牙がポイントなのだそうです・・・。
私は、勾玉を磨いてみました。
やすりで削った後に、少しだけ食用油を付けてツヤを出しています。
実験~結果と考察
作ったカゼインプラスチックを水に浸す実験などを行いました。
実験1:
前章の作り方で作ったカゼインプラスチックで実験
実験2:
もっと耐水性の高いカゼインプラスチックが作れるかどうか実験
実用性について:
実用化されているカゼインプラスチックと家庭で作るカゼインプラスチックの違いについて考察
それぞれについての【結果と考察】をまとめてみます。
実験1(基本実験)~押し固めによる圧縮&レンジによる加熱
前章の作り方で制作したカゼインプラスチックのうち、クッキー型を用いたものを実験に使用しました。
(※クッキー型を用いたものが、最も均一に圧縮と加熱ができているように見えたため。)
◆実験方法
カゼインプラスチックを水に浸して、時間経過による変化を観察する。
①浸し始め
水に浮いて吸水している様子も見られなかった。
②30分後
まだ固いが、表面に白い粒々が現れた。
少々水を吸っているように見えた。
③50分後
明らかに水を吸っている様子。
少し焦げ目のついた中心部はまだ固いが、端の焦げ目のない部分はフカフカしてきた。
④3時間後
水は殆どにごっていないが、細かい破片のようなものが数つぶ見えた。
焦げ目のついた中心部も多少やわらかくなった。
端にいくほどやわらかくなり、指で曲げることもできるようになった。
元のプラスチックの状態とはだいぶ異なるので、ここで実験終了とした。
考察
- 3時間でここまで柔らかくなったので、土に埋めたら分解されやすいのではないかと感じた。機会があれば自由研究として再度挑戦したい。
- 中心部の焦げ目のある場所の方が耐水性があった。
これは、中心の方が圧縮できていたことも理由の一つかもしれないが、主な要因としては加熱がしっかり行われていたからだと思った。
なぜならば、電子レンジで加熱した時に「パチッ」と破裂音がする場所から固くなり焦げていったからである。
実験2(追加実験)~圧縮方法と加熱方法を変えてみる
もう少し耐水性のあるカゼインプラスチックは作れないだろうかと思い、圧縮方法と加熱方法を少し変えて追加実験をしてみました。
◆実験方法
実験のポイント
- ラップに包みできる限り圧縮してみた。
- アイロンによる加熱圧縮を試してみた。
- 加熱前の乾燥時間を増やしてみた。
実験1で中心部よりも端の方が耐水性が無かったことから、もっと均一に圧縮できないだろうかと考えた。
そこで、茶巾しぼりを作る要領で、カゼインをラップに包み固くしぼった後、端っこをしっかり指で圧縮してみた。
作ってすぐに電子レンジに入れて加熱したところ、何個試してもことごとく電子レンジ内で破裂してしまった。
水分の多い状態だと破裂しやすいと考え、残った最後の1つのサンプルを半日ラップをかけずに冷蔵庫で乾燥させてから、4等分に切って実験を続けることにした。
サンプル1:
アイロンで加熱・圧縮後、電子レンジで加熱したもの
クッキングシートにサンプルをはさみ、高温のアイロンで圧縮加熱した。裏返して裏面も同様に加熱した。
アイロンだけでは、薄くなりすぎるし表面が焦げて水分が抜けきらなかった。
そこで、電子レンジでも加熱した。
500Wで30秒~1分程度の加熱を3回行った。
サンプル2:
丸1日冷蔵庫で乾燥させた後、電子レンジで加熱したもの
電子レンジは500Wで20秒、40秒、60秒、50秒、50秒、50秒、50秒と7回に分けて加熱した。
サンプル3:
丸2日冷蔵庫で乾燥させた後、電子レンジで加熱したもの
電子レンジは500Wで60秒、60秒、60秒、60秒と4回に分けて加熱した。
サンプル4:
丸2日冷蔵庫で乾燥させた後、アイロンで加熱・圧縮、その後電子レンジで加熱したもの
アイロンはサンプル1と同じ要領で行った。電子レンジは500Wで60秒、60秒、60秒と3回にわけて加熱した。
加熱後、爪で固さを調べていたら上図のように割れてしまった。中は空洞になっていた。
サンプル1~サンプル4を水に浸して耐水性を確かめてみた。
サンプル1
30分でペラペラになった。
サンプル2
8時間水に入れてもある程度の固さを保っていたが、水分を吸っているため爪で押すと形が変わった。
サンプル3
8時間水に入れてもある程度の固さを保っていたが、水分を吸っているため爪で押すと形が変わった。
サンプル4
1時間でペラペラになった。
考察
- アイロンで圧縮・加熱をしたサンプル1とサンプル4はペラペラになるのが早かった。
薄すぎたためかもしれないが、結局電子レンジで加熱しないと固くならなかったことから、アイロンを使う方法はカゼインプラスチックを作るのに適していないと思った。
- サンプル4の中身が空洞になっていたことから、乾燥し始めたサンプルを無理やり押しつぶすしてしまうと、結合しようとしていたカゼインが逆に離れてしまうような気がした。
- サンプル2とサンプル3で耐水性に大きな違いはなかった。
しかし、加熱前の乾燥時間が長いサンプル3の方が、電子レンジ加熱の時間が短く済んだので、ある程度乾燥させてから加熱すると作りやすいのではないかと感じた。
- 実験1と比較して、それほど耐水性は向上しなかった。
実際に実用化されているカゼインボタンなどは、一体どのように製造されているのかとても気になった。
実用性について
カゼインプラスチックを使った実用品を調べたところ、「カゼインボタン」というものがあることがわかりました。
このカゼインボタンの製造方法を調べると、硬化させる際に5日~半年もホルマリンに漬けることがわかりました。
実際にどのような反応が起こっているのかは調べきれませんでしたが、重合には、付加重合や縮合重合の他に付加縮合というものがあります。
付加縮合とは、付加反応と縮合反応をくり返して進む重合のことです。
ですから「カゼインボタン」を硬化させる時も、カゼインとホルマリンで付加反応を起こし新たな物質ができてから縮合反応をしているのかもしれません。
家庭でホルマリンを使った実験をすることはできないですし、仮にホルマリンがあっても長い時間がかかるようなので、洗濯にも耐えられるような耐水性や強度のある「カゼインプラスチック」を家庭で作るのは難しいと思いました。
小学生・中学生は、まず親しむことから!
小学生や中学生がプラスチックを作る原理を理解するのは難しいかもしれません。
しかしながら、例えば、自然界で分解されるプラスチックの存在を知ることや、牛乳の成分から作られたプラスチックが実際に世の中で使われていることを知るだけでも大きな意味があると思いました。
かがく実験を楽しみながら、まずはに親しむことから始めてみてはいかがでしょうか。
中学、高校と学年が上がっていった時に、かがくに興味がわいてくるかもしれません。
子供達が、海に漂うマイクロプラスチック問題などについても興味を持ってくれることを願っています。
プラスチックについて学ぶ時に、図解がありとてもわかりやすい本をご紹介します。
(自分で読むなら中高生以上ですが、親子で知識を学ぶなら小学生からも使えますよ。)
※我が家でも重宝している1冊です。大人も勉強になります。
【参考文献】
リセマム(外部リンク)
(カゼインプラスチックの作り方)
増見哲株式会社おおきに通信(外部リンク)
(カゼインボタンの作り方)
図解でわかる14歳からのプラスチックと環境問題(太田出版)
(プラスチックの基礎知識)