小学生・中学年以降の子供は、心や体の変化から、イライラしたり自分に自信が無くなって未来に少し不安を抱き始めることがあります。
18歳を成人とすると、ちょうど9歳~10歳は大人の半分。
親に反抗もするけれど、少しずつ対話もできるようになってきたこの時期に、『自分の命がどれだけ大切であるか。』を見つめ直してみると、今の自分そして未来の自分を信じる力になると感じます。
どんな子供の命も、『三億分の一の奇跡の命』です。
体の中には、『36億年の生命の歴史』と、『親からの宝物』が詰まっています。
そして、脳が発達したからこそ、『人間ならではの悩み』があり、『人間だけにしかできないこと』もあります。
子ども達には是非、読書を通して『自分の大切さ』を見つけてほしいと思いました。
今回ご紹介する、岩波書店の『人間ってなんだろう』という本は、少々古い本なので書店にはないかもしれません。図書館で検索するか、インターネットで古本や電子書籍を検索してみてください。
この本は、子供に向けたとてもわかりやすい生命科学や保健科学の本であり、大人に向けた子育てや人生を見つめ直す本でもあると感じました。
こんな方にお薦めです。
- 生命の不思議について知りたい人
- 多様性について考えてみたい人
- 心の変化や体の変化について知りたい子供
- 親子関係について考えたい親と子供
- 自分らしい未来について考えたい人
小学生の中学年~高学年の読書感想文にもお薦めの一冊です。
対象年齢
文章はとても易しくわかりやすく書かれていますが、内容は高度なものも含まれています。
岩波書店のホームページによると、対象年齢は小学5、6年からだそうです。
実際に読んでみた感覚では、物語として読む分には小学3、4年生でも読めるくらいわかりやすく書いてあると思いました。
全62ページで、ほぼ全てのページに大きな挿絵があります。
文字と絵の割合も同程度なので、文字数だけ見るとむしろ小学3、4年生向きに見えます。
ただし、例えば細胞分裂など生命科学の説明等をある程度理解するとなると、高学年向きになるかなと思います。
私は、小学3年生の我が子に読み聞かせをしました。
科学の細かい話は何となくしかわからない様子でしたが、生命の不思議や尊さは小学3年生にも伝わったと思います。
生命の不思議について
物語は、主人公たちがある人間(名前:太郎)の細胞の中に入り込むところから始まります。
そして太郎の一生、つまり生命の誕生から終わりまでを、細胞の内側から客観的な視点で語るというストーリーになっています。
小学生にもわかりやすい言葉で語られている内容は、実は高校以降で習うような細胞分裂やクローン技術といった、かなり高度な内容も含まれています。しかしそのような高度な内容についても驚くほど丁寧に書かれていました。
例えば、こんな不思議なことも書いてありましたよ。
はじめは皆、ある生き物のような形なのに、だんだん違う形になっていく!
とても不思議!
ただの科学の教科書よりも圧倒的に読みやすい理由は、人間の一生を物語として描いているからだと思います。
誕生→成長→反抗期→迷い→親になる→・・・
一日一日を大切に生きた命が、静かに土にかえっていく。
それは、まるでこの広い宇宙の一部に戻り、いずれまた別の命に取り込まれていく『悠久のサイクル』のようだと感じました。
みんな違って当たり前~多様性についても
命の始まりについて知ると、自分がどれだけ特別な存在かわかるかもしれません。
頭のてっぺんから足の先まで人間の体の全てを作る設計図(遺伝子)は、お父さんとお母さんそれぞれから22000個ずつもらうのです!
しかもお父さんの設計図は、3億個の中から競争に勝ち抜いて一等賞をとった特別な存在です。
【おまけ】
高校生くらいになって、もし生物に興味を持ったなら、こんなことも是非調べてみてください!
お父さんとお母さんの設計図を作る時に行われる、『減数分裂』や『組換え』についてです。子孫の多様性を高める生物の不思議さにきっと驚くと思いますよ。不思議なことがいっぱいです!
命の成り立ちを知っていくと、人間ってみんな特別な存在なんだなという気がしてきませんか?
みんなちがって、当たりまえ。
むしろ多様性こそが、生物として大切な気がしてしまいました。
ビニール袋の口を片結びするのに20分もかかってしまう、手先が不器用な小学3年生の息子がいます。
苦手なことがあっても、何か得意なことを見つけて世の中の役に立てたらいいなと思っています。
息子に妊娠中のお腹のエコー写真を見せました。
久々に母子手帳も読み返しました。そんな気持ちにさせてくれた本でした。
心と体の変化~成長過程で子供に起こること
小学生の中学年~高学年になると、ホルモンの影響で体や心に変化が生じてくる子供も増えてくると思います。
息子が小学3年生になって少し驚いたことは、小学3年生・4年生兼用の『ほけん』の教科書に、思春期の体の変化について既に記載されていたことです。
『人間ってなんだろう』という本は、面と向かって親と話しにくいなと思うお子様でも、命や人生という大きなテーマの中の一過程として、自然な流れで本の物語の中から『体や心の変化』を学ぶことができる本なのではないかと感じました。
親子関係について
『人間ってなんだろう』という本は、主人公・太郎という一人の人間の命の誕生から終わりまでをたどる物語です。
太郎の一生の中には、子供やその周りにいる大人が普段感じているような『悩み』や『思い』も登場します。
例えば、
- 反抗期
- 自分の進路
- 我が子の進路
- 親の子供に対する思い
などです。
その時、本の中で、
- 太郎の周囲の大人(親や先生)は、どんなことをしたのか。
- 太郎は、何に気づきどんな行動をとったのか。
- 太郎は親になってから、子供とどのように接していたのか。
そんなことを確かめながら読むと、親子関係について見つめるきっかけになるのではないかと思います。
本を読みながら、これまでの子育てを振り返ったり、まさに自我が芽生え始めて主張が増えてきた小学生の息子の今と照らし合わせみたり。
子供に向けた本でもあり、子育てに関わる大人に向けた本でもあるように感じました。
人間について考えてみよう~人間だけ?人間だから?
結局、人間ってなんだろう?
そんな質問を投げかけてくれる本かもしれません。
- 生きるとは何か。
- 人間だけが持つものは何か。
- 人間としてどう振舞うべきか。
- 人間だからできることは何か。
など。
大人にとっても難しい問いですが、もし子供達が人間として未来の自分に何ができるのかを考えるきっかけになるのなら、とても意味のあることだなと思いました。
受け継がれるのは遺伝子だけではない~子供たちへ
性格・形・体質・・・
命から命へ受け継がれていく遺伝情報を、この本では『手紙』に例えて説明しています。
生命が誕生してから36億年、これからもこの先も手紙の配達は続きます。
でも、命から命へ受け継がれていくのは、遺伝情報だけではないはず。
『人間の営み』や『人間の心』も受け継がれていくのだと感じました。
~最近、何だか思うようにいかないなと感じている子供たちへ~
今、”ちょっとしんどいな”と思っている子は、それがいつまで続くのか不安に感じているかもしれません。
私は、とても苦手なことが多い男の子を育てるお母さんです。
息子は、友達から「記憶喪失」と言われているらしいのです。
たしかに数分前のことをすぐ忘れます。同じ失敗を何度もくり返します。
でも自分の興味のあることは、とてもよく覚えているですけどね。
私たち夫婦から息子にとどいた命の手紙(遺伝情報)にそう書かれていたのかもしれません。それなのに、大人の私でも”子育てってしんどいなー”と思う日があるのです。
ひどい大人ですね。大人でも、よく失敗しちゃいます。
もしかしたら、その”しんどさ”の原因は、いま自分が生きている小さな世界(家の中や、ご近所など)が、この世界の全てだと思っているからかもしれません。
でもよく考えてみたら、地球は宇宙の中のほんの小さな星にすぎず、さらに日本は、ご近所は、学校は、クラスは・・・と考えていくと、私たちの普段いる世界は宇宙のほんの一部なんだなと、この本が教えてくれる気がしました。
人間は、はてしない宇宙の小さな小さなカケラだと思います。
あなたが知らない素敵な世界も、この世には絶対あるはずです。
世界中のニュースを見てもわかる通り、世の中は決して平等とは言えません。しかし、あたえられた環境の中で、あなたにしかできないことがきっとあると思います。
もし、今かかえている”しんどさ”を乗り越えることができたら、苦しんだ経験は未来の自分の力になるし、いつかきっと、同じ”しんどさ”かかえる誰かの役に立つはず。私は、そう強く信じて生きています。
”しんどい思いをするなら、遺伝情報なんて別の情報に換えてほしい。”と思ってしまうこともあるかもしれません。
だけど、三億分の一という気の遠くなるような確率から選ばれた奇跡のような命だといことを、たまーに思い出してみてください。
そして、お父さんとお母さんから一つずつもらった、ものすごい数の設計図があなたの体をせっせと作り上げたことも。
おじいさんやおばあさん、お父さんやお母さんからもらったものは、遺伝情報だけではありません。”あなたを大切に思う気持ち”も、ちゃんともらっていると思います。目には見えないけれど、大切なあなたに届けられたお手紙です。
これから先、あなたが歳を重ねれば重ねるほど、その『目に見えない手紙』の意味がきっとわかってくると思います。
その時は、あなたも誰かに『見えない素敵なお手紙』を送ってみてくださいね。