『すごい弁当力!』の著者は、九州大学 農学部 助教の佐藤剛史さん。
彼は本の始めで「食は子どもの体を育むだけでなく、子どもの心を育み、更には学力をも育む」
と言い切っています。
食にそんな力が?本当でしょうか??
まずは、半信半疑で読み始めてみました。
結果、食にまつわる子供時代の思い出があれこれとよみがえってきて・・・・・・。なぜか涙が出てきてしまう一冊でした。
弁当は親と子どもの心をつなげる
弁当にまつわる記憶は驚くほど鮮明に蘇ってくるものです。
本で紹介されている数々の弁当に関するエピソードも、心温まるものから、ちょっぴりほろ苦い思い出まで様々。しかし、どの弁当の思い出にも人の心を揺さぶる力があります。それはいったいなぜなのでしょうか?
それは、誰かが誰かの為に作った食べ物には、相手を思いやる心が詰まっているからだと思います。例え冷凍食品ばかりのお弁当であっても、忙しい時間を割いて弁当箱に詰めてくれた人の大切な時間が詰まっています。
子どもの頃には有難みがわからなかった人も、成長して親の思いがわかる年齢になれば、きっとわかるはず。親が作ってくれたお弁当は、親と子どもの心のつながりを教えてくれます。
「弁当の日」とは
著者が全国に広めたと言っても過言ではない「弁当の日」とは、小学校~大学の全国1800校以上で実施(2016年時点)されている、子どもが自分で弁当を作り、持参して食べるというプロジェクトです。
数か月に一度実施して、自分で作った弁当を自分が食べるというスタイルもあれば、著者が務める九州大学農学部のように、週に一度一人一品持ち寄り、皆でシェアして食べるというスタイルもあります。
九州大学農学部の卒業生の中には、就職してから職場でこの取り組みを始めた方もいるそうです。
「弁当の日」が育むこころ
これは、弁当の日を経験したある生徒の言葉です。
「母に感謝する心、食べてもらう人のために一所懸命に作る心を学んだ」
朝早く起きて作る大変さ。喧嘩した次の日も、弁当に文句をつけた次の日も作ってくれた懐の深さ。大好きなものをたくさん詰めてくれた優しさ。
数えあげたらきりがない程の親の愛情は、当たり前のことと思っているうちには、なかなか気が付きません。自分が体験することで、そのありがたさに気付き、感謝の気持ちがわいてきます。
私が、結婚して子どもを持つまであまり気が付かなかった「大切な心」を、子どものうちから知ることができるというのは、何よりの教育だと思いました。
「弁当の日」で育つ社会人としてのスキル
本の中には、自分で弁当をつくることで育つ、社会人としてのスキルについても書かれています。それは次の二点です。
- セルフ・マネージメント
- プロジェクト・マネージメント
1は、朝起きて弁当を作るには、自分はどのように行動すべきかを考える能力です。
2はPlan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)のサイクルのことで、これを回すことで、さらに「アイデア力」「イメージ力」「段取り力」も身につくというものです。
どちらも、社会人として非常に重要なスキルですよね。主婦をしていると当たり前のように繰り返していることですが、子どもの頃からマネージメント能力を鍛えておけば、一生使えるスキルになると思いました。
見守る側の心構え
全く料理をしたことのない子どもに料理をさせるのは、親として大変な面もあります。
それが朝の忙しい時間であれば、貴重な時間を費やして見守る必要がありますし、安全面や仕上がりの面からは色々口を挟みたくなるでしょう。
弁当の日を体験したある親御さんは
「口を出さない、手を出さない、辛抱する大切さ」を学んだとおっしゃっており、
また弁当の日を実施した学校の先生は
「こどもは失敗する権利がある」とおっしゃっていました。
これは弁当の日に限らず、子育て全般に当てはまることだと感じました。
家族への影響
子どもが弁当を作ることで親子の会話が生まれます。親はよく頑張ったね、おいしかったよと伝えることができますし、子どもは親に褒めてもらうことで喜びを感じ、自己肯定感が育てることができます。
また、弁当の日を経験した、ある母親のエピソードはこうです。
子どもが弁当の作り方を尋ねてきたのに、作り方がわからず答えられませんでした。その結果、子どもは弁当作りが上手くできず、悲しい気持ちで失敗した弁当を食べて帰ってきたのです。その事実を後に知ることになった母親は、当時勤めていた仕事を辞め、新たに調理補助の仕事に就いて料理を学び、今では子どもからも尊敬されているそうです。
弁当の日は、何かを子どもが学び取るだけにとどまらず、家庭内に温かい風を吹かせて家族を全体を育て、つなげるものなのかもしれません。
今すぐ出来る事がきっとある
私は正直なところ、今までそれ程「食」を重要視していませんでした。しかしこの本を読んで、
食は非常に優れたコミュニケーションツールだと感じました。
子どもに弁当を作らせる余裕がなくても、毎日親が弁当や食事を作る余裕がなくても、一つくらいは実践できる食育があると思います。
大事なのは、「親が子どもへ、どれだけあなたを大切に思っているか、食の力で伝えること」
季節を意識する、器を工夫する、暑い日に冷たい料理を用意する、遠足など特別な日だけでも好物のたくさん入った弁当を用意する・・・・・・。
今の生活の中でできる範囲の心配りをすることが、子どもに愛情のメッセージとして伝わるのだと思います。
自分の事をこんなにも大切にしてくれたという思いが、子どもの自己肯定感を高め、物事への意欲を向上させ、学力までも向上させるのだと思います。
心温まるこの本を、是非読んでみてください。