この記事では、「標高が高いと、なぜ気温が下がるのか?」という子供の疑問に対して詳しく解説しています。
この疑問と向き合うためには、高校で習う物理や化学の知識が必要となりますが、現象をイメージすることを優先し、小学生や中学生にもわかりやすい解説となるよう工夫しました。
(1章から7章まで順にたどっていくと理解しやすいと思います。)
ご家庭でも簡単にできる科学実験や、現象を理解するために参考となる書籍などもご紹介しています。
科学を身近に感じながら、楽しんでみてください。
1章:大気のことを知ろう!
地球の表面を覆う空気の層を大気といい、地表から高さ500kmくらいまでを大気圏と呼んでいます。
一般的には、大気が極めて少ない地表から100kmより高いところを宇宙と呼んでいますが、例えば国際宇宙ステーションは高度およそ400kmを飛んでいますので、まだ大気圏内にいることになります。
大気圏は気温の分布により4つ(上から熱圏・中間圏・成層圏・対流圏)に分類されていますが、一番地表に近い対流圏に全体の4分の3の重さの大気が集まっています。
「標高が高くなると気温が低くなるのはなぜか?」という話をする時、それは対流圏での話をしています。
太陽に近い方が温かい気がするけど、なぜ違うの?
太陽からのエネルギーについて見てみましょう。
対流圏では、直接大気に吸収されるエネルギーの割合は少なく、地表や海面吸収されたり、吸収されずに反射される割合の方が大きくなります。
だから・・・
対流圏では、太陽に近いほど大気の温度が高くなるわけではありません。
【豆知識】
ちなみに、1つ上の層・成層圏では、大気が太陽からのエネルギーをよく吸収し、上空にいくほど少しずつ大気の温度が上昇します。これは、オゾンという物質が多く含まれているためです。
2章:熱と温度の正体とは?
固体、液体、気体などの物質は目に見えない原子や分子という粒からできています。
『熱』というものを考える時、目に見えない粒の動きをイメージすることが大切になってきます。
水を例に、粒の動きをイメージしてみましょう!
水の中では、無数の分子という粒が動きまわっています。(下図参照)
これを熱してみると、粒の動きが活発になります。
その結果、水の温度が上昇します。
- 液体の中では、顕微鏡でも目に見えないほど小さな粒が自由に動きまわっています。
- 液体に熱を加えると粒の動きが活発になり、温度が上昇します。
【豆知識】
固体では、粒同士がしっかりくっついているので、自由に動くことはありません。しかし、粒は細かく振動しており、液体と同様に熱を加えると動き(振動)が活発になります。
角川科学マンガシリーズ「空想科学学園(熱血エネルギー編)」は、小学生の息子が今夢中になって読んでいる本です。科学を楽しく学びたいお子様にお薦めです。
\固体・液体・気体の状態変化なども楽しく学べます/
ところで、気体も同じ性質なのかな?
⇒3章を見てみよう!
3章:空気が温まるとどうなる?~実験しよう!
空気を温めたら、一体どうなるのでしょうか?
まず、実験してみましょう!
手順1
ある程度耐熱性のあるポリ袋に空気を入れて、口をしばっておきます。
※今回は耐熱温度110℃の食品保存用ポリエチレン袋を使用しました。
手順2
鍋で沸かしたお湯の中に、1で作った袋を入れます。
鍋肌が熱いと袋が溶けることがあるので、菜ばしなどで押さえておくと実験しやすいです。
空気を入れた袋を温めると、だんだんふくれてきますよ!
空気は液体とは少しちがうみたい。
温度が上がるだけじゃなくて、体積まで増えているよ・・・。
これは一体どういうことなのかな?
空気(気体)は、液体や固体よりも少し複雑で、与えられた熱が温度上昇と体積増加の両方に使われます。粒がバラバラになって飛び回っているイメージです。
逆に冷やして熱がうばわれると、温度も下がり体積も減りますよね。こちらも実験でも試してみてください!
『ピストンが付いたシリンダー』を使って、もう少し整理してみましょう。
①
シリンダーの中に空気が密閉されています。
②
シリンダーの中の空気を温めると、シリンダーが右に動きます。⇒ 体積増加
そして、空気の温度も上がりますよね。⇒ 温度上昇
気体に熱を加えると、温度が上昇し、かつ体積が増加しました。
この現象を式で表現することができます。
(熱力学の第一法則といいます。)
高校生で習う内容なので覚える必要はありません。
何が起きているのかイメージだけでOKです。
吸収熱・内部エネルギーの変化量・仕事にはそれぞれ符号があります。
先ほど行ったポリ袋の実験を例に説明します!
気体は、温めたり冷やしたりすると、温度だけではなく体積も変化することを覚えておきましょう!
4章:空気は体積が増えるとどうなる?
太陽からのエネルギーの多くは、地表や海面に吸収されます。
だから、地表や海面が温まると、そこに接している空気が温まります。
3章で空気は温まると、体積が増えることを学びましたね!
では、空気は体積が増えるとどうなると思いますか?
結論から先に書きましょう。
空気は、体積が増えると上昇します。
この理由を、この章では説明していきます。
3章で実験したポリ袋のことを思い出してください。
ポリ袋は密閉されているので、袋の中にある粒の数は増えたり減ったりしませんね。でも、温めると体積は増えます。これを図にすると下図のようになります。
温まると粒と粒の間隔が離れるので、同じ体積で粒の数を比較すると、ふくらんだ空気の方が粒の数が少なくなりますよね。つまり、温まってふくらんだ空気の方が軽くなるのです。
5章:標高と気圧の関係とは?~実験しよう!
さて、温まった空気がだんだんと上空に昇っていくと、気圧の影響も大きくなってきます。
気圧とは、一体何でしょうか?
気圧とは、空気が物体を押す圧力です。
実は上空にある空気にも重さがあるのです。
重さを面積で割ると圧力がでるので、例えば、指先の上1cm×1cmの正方形の上にどのくらいの重さの空気があるのかを考えてみましょう。
小学館の図鑑NEO地球によると、地表では1cm2あたり1kg、標高8000m地点では1cm2あたり約300gの重さになるそうです。
でも、なぜ、ふだんは重さを感じないのかな?
きっと多くの子供達が疑問に思うはずです。
それは、気圧と同じ強さで空気を押し返しているからなのです。
空のペットボトルにふたをしたものをイメージしてください。中の空気が外の気圧と同じ強さで押し返しているから、ペットボトルはつぶれません。目には見えませんが、私達人間の体でも同じことが言えます。
そうは言われても、何だかピンとこないな・・・。
そんな時は、とても簡単な実験をしてみましょう!
手順1
500mlの空のペットボトルを、マグカップなどの中に立てて安定させておく。(転倒防止の為)
手順2
水蒸気が出るくらいの温度の熱いお湯を2~3cm程入れて、しっかりとふたを閉める。
手順3
ペットボトルを水道水で冷やす。
ペットボトルを冷やした瞬間、このようにくしゃっとつぶれます。
なぜつぶれたかというと、冷えてペットボトル内の水蒸気が水に戻ったことで、ペットボトル内の圧力が下がり気圧にたえられなくたったからです。
- 地上にある全てのものは、空気に押されています。この圧力を気圧といいます。
- 標高が高くなるほど気圧は低くなります。
『小学館の図鑑NEO地球』は、気圧のことをはじめ、水と大気や気象について、地球の構造や宇宙との関係、宇宙と地球の関係、大地や地層のことなどが掲載されている図鑑です。我が家でも小学3年生頃からこの図鑑の出番が増えてきました。
例えば、ニュースを見ていて、「エルニーニョ現象って何だろう?」と疑問に感じた時など、調べものの際にとても重宝します。
また、中学生以降では地学の学習にも役立つので、長く使える図鑑だと思います。
\小学生~中学生の地学の学習などに重宝します/
気圧が低くなると、空気はどうなってしまうのかな?
何となくふくらみそうな気はするよね・・・。
6章:空気は気圧が低くなるとどうなる?~実験しよう!
『山登りをした時に、山頂でおやつを食べようとしたら、お菓子の袋がパンパンになっていた!』
そんな経験はありませんか?
標高が高くなると気圧が低くなります。
でも、お菓子の袋の中の空気圧は袋詰めしたときのままです。
だから、お菓子の袋はふくらんでしまうのです。
標高200mくらいからこの現象は見られるそうなので、山に行く機会があれば是非試してみてください。
- 気圧が低くなると、空気はふくらみます。(体積増加)
- ふくらんだ空気は軽くなるので、上昇します。
山に行くことができなくても、例えば、真空保存容器のようなものが家にあれば自宅で実験することだってできますよ!
手順1
少しだけ空気を入れた風船を保存容器に入れる。
手順2
ふたをして、保存容器内の空気を抜く。(内部の圧力を下げる。)
手順3
風船がふくれてくるのを確認する。
手順4
保存容器に空気を入れると、風船が元のサイズにちぢむか確認する。
7章:標高が高くなると気温が下がる理由!
1章で説明した通り、大気の層のうち一番下の対流圏という層では、太陽からのエネルギーが直接大気に吸収される割合が少ないのです。
これを踏まえて、3章で登場した式をもう一度見てみましょう!
吸収熱=内部エネルギーの変化量+仕事
標高の高い場所では、
吸収熱:ゼロに近い
(対流圏で、太陽エネルギーが直接大気に吸収される割合が少ないため。)
内部エネルギーの変化量:?
(大気の温度が上がればプラス、下がればマイナスに。いったいどっち?)
仕事:プラス
(標高が高いと気圧が低くなり、大気がふくらむため。)
この式を成立させるためには、内部エネルギーの変化量をマイナスにする必要がありますよね。
内部エネルギーの変化量がマイナスになる
=
粒の動きがゆるやかになる
=
大気の温度が下がる
(100m上がるごとに0.65℃ずつ下がります。)
【豆知識】
上層で冷えた空気は、そのうち重くなり下降し始めます。このように、対流圏では下層の温かい空気と上層の冷たい空気が入れ替わる対流が起きています。
これで謎解きは終了です!
少しイメージできたでしょうか?
高校生になったら、物理や化学の授業でもう一度勉強してみてください。
目に見えないものを頭でイメージした経験が、きっと数年後に役に立つと思います!