昆布などに含まれる成分から作られた「アルギン酸ナトリウム」という物質を使って、ゲル状の膜で水が球状に包まれ、手でも持ち上げられる不思議な「つかめる水」の作り方を詳しくお伝えします。
「つかめる水」ができる原理、失敗しないためのコツや注意点なども詳しく掲載しました。
最初のうちは何度か失敗するかもしれませんが、一度コツさえつかめば、とても楽しく色々な実験や化学遊びができますので、お子様と一緒に楽しんでみてください。
実験材料・準備するもの
「つかめる水」の科学実験では、アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムという2種類の粉末を使います。別々に購入することもできますが、数回分実験ができるキットを購入すると、計量スプーンやスポイトなどの付属品が付いていて便利です。
【材料】
- アルギン酸ナトリウム
※分量は基本の作り方に記載 - 乳酸カルシウム
※分量は基本の作り方に記載
私は、2種類のキットを購入して、両方を使いながら科学実験をしました。
「つかめる水」を作るには少々コツが必要です。
キットを購入する場合でもしない場合でも、最初の数回は失敗する可能性があるので、最低でも3回分は使えるものを選ぶとよいかなと思いました。
①水がつかめる
4~5回実験できる材料と、計量スプーン、スポイト、絵の具を使うためのパレット、詳しい解説書が入ったキットです。
小粒を作る科学実験をしたい方は、スポイトとパレットがあるとかなり便利です。
QRコードを読み取れば、詳しい作り方の動画も視聴できます。
②水バルーン実験セット
7回実験できる材料と、計量スプーン、作り方レシピが入ったキットです。
\ 何度も繰り返し実験したい方に /
【準備するもの】
- 500mlのペットボトル 1~2本
- ボウル 2個
- レンゲかお玉 1個
※私は、お玉の方が作りやすかったです。 - 網杓子 や穴開きお玉 1個
- 柄が長めのスプーン
- 拭き取り用のティッシュや布巾など
※計量スプーンない場合には、はかりが必要です。
【必要に応じて準備するもの】
- 食紅
※「つかめる水」が、水中で確認しづらい時に少し色をつけると便利 - 絵の具
※小粒を作る時に着色したい場合 - 小鉢
※小粒を複数の色に着色する場合、スポイトを洗う水をいれるために使用
◆科学実験その①~基本の作り方&失敗しないためのコツ
【基本の作り方】
1.アルギン酸ナトリウム水を作る
ぬるま湯250mlに対して、2.5g程度のアルギン酸ナトリウムを溶かします。
キットを購入した場合には、説明書に書いてある分量で作ってみてください。
アルギン酸ナトリウムは水に溶けにくいので、ダマにならないように注意が必要です。先にペットボトルの中にぬるま湯を入れた後、粉末を入れる方がダマになりにくいと思います。
後は、ふたを閉めて10分くらいペットボトルを振りましょう。白濁していた液が透明になれば、きちんと溶けた合図です。
ペットボトルの口についた水分をティッシュなどで軽く拭いてから、下図のように紙を丸めて漏斗にするのがコツです。
※もしも、中に透明もしくは半透明のかたまりが浮いていたらダマになっていますので、もう少し時間をおいてください。
【ダマになってしまった時のコツ】~失敗しないために
- 時間が経てばゆっくりと溶けていきます。私は大きなダマができた時、溶けるまでに4時間くらいかかりました。
時々振りながら気長に待ちましょう。前日から準備しておくのもよいかもしれません。
- 何度やってもうまくいかない場合には、最初から少しアルギン酸ナトリウムの粉末分量を増やして作ってみてください。所定の濃度になっていれば、少々ダマが残っていても作れると思います。もし途中から粉末を追加する場合には、漏斗を使って少量ずつ溶かしましょう。
やむを得ずダマが残ってしまった場合には、ダマが外に出てこないように注意しながら上澄みだけを注いでください。
2.乳酸カルシウム水を作る
ボウルに水1000mlを入れ、乳酸カルシウムの粉末を6~10g入れ、スプーンなどで2、3分かき混ぜます。
キットを購入した場合には、説明書に書いてある分量で作ってみてください。
乳酸カルシウムは、アルギン酸ナトリウムに比べると溶けやすいので、スプーンでかき混ぜれば溶けました。
1と同じ要領でペットボトルの中に入れて溶かしてもOKです。小さいボウルを使えば、400mlくらいあれば実験できると思います。
3.「つかめる水」を作る
「つかめる水」作りは意外とコツ必要でなので、最初の数回は上手く作れないかもしれません。
無色透明の液体の中に無色透明の「つかめる水」が入っていると、上手く作れているのか確認しづらいので、私はアルギン酸ナトリウム水の中に少しだけ食紅を入れて色をつけました。
※絵の具を使うと不透明になりますが、食紅だと透明なまま着色できます。
【「つかめる水」を見やすくするコツ】~失敗しないために
アルギン酸ナトリウム溶水に食紅で少し色をつけると作りやすいです。
おたまの中にアルギン酸ナトリウム水を注ぎ、2で作った乳酸カルシウム水の中にお玉ごと入れます。動かさずに数秒そのままにしておきます。
【お玉を沈める時のコツ】~失敗しないために
お玉を少し傾けて、一気にお玉の中に乳酸カルシウム水が入るようにすると作りやすいです。
次は、お玉を傾けてふわっと静かにお玉を水中から引き上げます。
この時、お玉の中の「つかめる水」がうまくはがれてくれないことがあります。と言うより、私の場合、毎回うまくはがれませんでした。
そんな時は、下図のようにスプーンを使って少しずつ優しくはがしてみてください。
お玉は、作るたびに布かティッシュで拭いてきれいにしましょう。
【お玉から「つかめる水」がはがれない時のコツ】~失敗しないために
お玉を少しずつ引き上げながら、スプーンでゆっくり優しくはがすと作りやすいです。
「つかめる水」ができていることを確認できたら、そのまま2~3分おいておきましょう。時間が経つほど、「つかめる水」の外膜の厚みが増して破れにくくなります。
お好みのかたさになったら、網杓子などで水の入っているボウルにうつせば完成です!
完成品はこちらです!
ヘンテコな形のものもあり、それはそれで子供が喜んでいました。
【「つかめる水」が固まらない時のコツ】~失敗しないために
球にならないだけではなく、そもそも膜自体ができない場合には、次のことを確認してみてください。
- 乳酸カルシウム水の濃度が正しいか確認しましょう。
分量は説明書通りであっても、しっかり溶けていないと濃度が足りなくなる場合があります。
- アルギン酸ナトリウム水の濃度が正しいか確認しましょう。
分量は説明書通りであっても、しっかり溶けていないと濃度が足りなくなる場合があります。特にアルギン酸ナトリウム水は溶けにくいので、しっかり溶かしてください。
これも 試してみよう!
「つかめる水」の外膜は、乳酸カルシウム水に長く浸ける程厚くなります。
2~3分浸けた程度だと、指で強く握ると破れてしまいます。
それでは、丸1日浸けたらどうなると思いますか?
是非試してみてください!
◆科学実験その②~フィギアを入れる作り方
「つかめる水」を作ることに少し慣れてきたら、中にフィギアなどを入れてみても楽しいですよ!
今回は、イルカのフィギアと貝殻で実験してみました。
お玉に入れたアルギン酸ナトリウム水の中央にフィギアを入れて、乳酸カルシウム水の中に入れましょう。浸けてすぐであれば、指でフィギアの位置を微調整できます。
あとは、基本の作り方と同様です。
完成した「つかめる水」はこちら。
フィギアの形状によっても、作りやすさが違うと感じました。
色々試して楽しんでみてくださいね。
◆科学実験その③~イクラみたいな小粒の作り方
絵の具を溶かすパレットのようなもの(無ければ小皿など)とスポイトが必要なので、それらが付属している実験キットを購入すると、作りやすいと思います。
絵の具で着色する場合は、スポイトを洗うための水を入れる小鉢も用意しておくと便利ですよ。
今回は、絵の具で着色する場合の作り方を説明します。
1.絵の具入りのアルギン酸ナトリウム水を作る
パレットなどに少量の絵の具を入れ、アルギン酸ナトリウムを入れてから、よくかき混ぜます。
スポイトを洗うための水も用意しておくと便利です。
【小粒を作るコツ】~失敗しないために
絵の具に対してアルギン酸ナトリウム水が少ないと失敗の原因になります。最初は少量の絵の具から試してみてください。
2.乳酸カルシウム水の中に一滴ずつ落とす
乳酸カルシウム水の入ったボウルを用意します。
その中に、1で作った着色済みのアルギン酸ナトリウム水をスポイトで吸って一滴ずつ垂らしていきます。
上手くいけば、丸い小粒ができて水中に沈んでいきます。
※浮かんでしまう場合は、失敗の可能性が高いです。
こんなカラフルな小粒がたくさん作れます!
【小粒を上手く作るコツ】~失敗しないために
- スポイト内に空気が入らないように注意しましょう。
- 一滴の量が少なすぎないように垂らしましょう。
- スポイト内を水で洗う時は、しっかり中の水分を出してから使いましょう。
- 時間が経つとパレット内の絵の具が沈殿して、アルギン酸ナトリウム水の濃度が均等ではなくなってきます。時々かき混ぜ直したり、濃度が足りないと思った場合には継ぎ足したりしてみましょう。
もっと、色々な色を作ってみたい!!
色と色を混ぜて、子供がアート遊びを始めました!
真剣に色合わせをしていました。出来た小粒はこちらです。
実験終了後、こんなことも!
原理~なぜつかめるの?
アルギン酸とは
昆布やワカメなどの海藻に含まれる「ぬめり」の元で、天然の食物繊維の一種です。 アルギン酸は水に溶けないので、アルカリを加えて中和し、水に溶けるアルギン酸ナトリウムとして増粘剤などの食品添加物として利用されています。
アルギン酸ナトリウムとは
アルギン酸ナトリウムは、水に溶けると電離します(下図参照)。
アルギン酸ナトリウムが水に溶けると、プラスの電気を帯びたナトリウムイオンが離れていきます。すると、ナトリウムイオンが元々あった場所が手ぶらになってマイナスの電気を帯びた状態になるというイメージです。
乳酸カルシウムとは
とうもろこしなどの糖類を発酵させたものに、貝殻などのカルシウムを加えたもので、水に溶けやすい性質があります。
水に溶けた乳酸カルシウムは電離して、プラスの電気を帯びたカルシウムイオンが離れていきます。
カルシウムイオンはプラスの電気を帯びた手が2本あるイメージを持つと、子供でもわかりやすいかもしれません。
アルギン酸カルシウムとは
さて、アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムが出会うと何が起きるのでしょうか?
それぞれ、空いているプラスとマイナスの手をつなぎ合って、下図のようにくっつき水に溶けない網目状の膜になっていきます。そして時間が経つほどこの膜が厚くなっていきます。
アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムが触れた部分だけゲル状の膜ができることが、「つかめる水」ができる原理なのです。
ゲルとは
繊維がからまり網目状になった状態のことを言い、水に溶けない性質があります。
自由研究にも!
★自由研究のヒント
アルギン酸ナトリウムや乳酸カルシウムは、食品など様々なものに使われています。自由研究をするなら、何に利用されているか調べてみても面白いですよ。
◆科学実験その④~昆布から膜は作れるのか?
昆布なら家にあるから、アルギン酸ナトリウムが作れないのかな?
こんな素朴な疑問から、昆布からでも「つかめる水」を作れるか実験をしてみることにしました。
自由研究のネタとしても参考になさってください。
まず、食品開発ラボHPにアルギン酸ナトリウム溶液の作り方に関する記載を見つけました。
原料となる海藻を酸処理して軟化させたのちにアルカリ下で加熱することでアルギン酸塩が抽出されます。これを分離、精製してアルギン酸ナトリウム溶液が得られます。
引用:食品開発ラボ
強い薬品は家にないので、酸としてお酢を、アルカリとして重曹を使用しました。
①
小さく切った昆布をお酢に浸して一晩漬けこむ。
②
昆布だけを取り出し軽く水洗いをしてから鍋に入れ、水500mlと重曹大さじ1杯を入れて熱する。
※残ったお酢は料理に使いました。
③
重曹と水が反応して発砲してきます。
④
泡が落ち着いてきたら、火を止めます。
これを別の容器に移して一晩おいておきました。
あとは、「つかめる水」の基本の作り方と同様の手順で、乳酸カルシウム水の中に入れてみます。
結果は・・・
結果
何となく膜らしきものはできましたが、「つかめる水」にはなりませんでした。
また、白濁してしまいました。
いくつか疑問がわいてきたので、追加実験もしてみました。
白く濁ったのはなぜだろう?
昆布から出るアルギン酸以外の成分が影響しているのかな?
昆布の成分で有名なものとして思いついたものが、うま味のもと「グルタミン酸」。
アルカリ(重曹)と反応して「グルタミン酸ナトリム」になっているのではないかと考えてみました。グルタミン酸ナトリウムと言えば、料理に使う「うま味調味料」が思い浮かんだので、うま味調味料お湯で溶かしたものに重曹を入れてみました。
しかし、特に変化はありませんでした。
じゃあ、重曹が関係しているのかも?
乳酸カルシウム水にお湯で溶かした重曹水を加えてみます。
すると、無色透明だった乳酸カルシウム水がすぐに白濁しました。しばらく放置しておくと、底に白い沈殿物がたまってきます。
重曹(炭酸水素ナトリウム)は、熱を加えると炭酸ナトリウムに変化します。炭酸ナトリウムと乳酸カルシウムが化学反応を起こし、炭酸カルシウムが沈殿したのではないかと推測してみました。
アルギン酸ナトリウム水を昆布から作ろうとした時、重曹が残っていると白い物質ができてしまうことで、「つかめる水」がうまく作れなかったのかもしれません。
自由研究のヒントに、考察としてまとめました。
考察①
昆布からアルギン酸ナトリウムを作ろうとした時、アルギン酸以外にも、例えばグルタミン酸など他の物質も出てくるため、アルギン酸だけを分離することができなかったのではないかと思う。実際の製品はどのようにして単一の物質を分離しているのか気になった。
考察②
「つかめる水」を作ることには失敗したが、膜のようなものはできていた。このことから、もしかすると、昆布の量を多くしてみたらもっとしっかりした膜ができたかもしれないと思った。ただし、この膜がゲル状かどうかは判別できなかったので、アルギン酸ナトリウムが本当に抽出できたかは不明である。
考察③
アルギン酸を重曹で中和しようとした時、重曹を入れすぎると、中和されなかった重曹が残ってしまう。この為、重曹と乳酸カルシウムが反応して白い物質(恐らく炭酸カルシウム)ができてしまった。
きちんと実験するためには、リトマス試験紙などを使って、少しずつ重曹の量を増やして中和する必要があると感じた。